「何」


 花音は振り返らずに耳を傾ける。が、一向に話を続けようとしない母に痺れを切らし、良い感じに焼き上がった目玉焼きを皿に乗せ、母と向き合った。


「何?」


 まっすぐに向き合った二人の間に、静かで、しかしどこか重々しい空気が流れた。


「祥多君。目、覚ましたらしいわね」


 花音の眉がぴくりと動く。


「貴女の様子がおかしかったから、直樹君に電話して聞いたの。祥多君、何も覚えてないんですって?」


 母は立ち上がり、母専用のカップに珈琲を注いだ。それから、娘専用のカップにも珈琲を注ぐ。


「はい」


 入れたての珈琲を花音に手渡し、再びテーブルに着いて珈琲を啜った。

 花音は受け取った珈琲を無言で見つめる。


「花音」

「だから何。お母さんには関係ないでしょ」


 ふいと顔を逸らし、珈琲を啜る。


 母の口から次に発せられる言葉が容易く予想出来た。

 だから言ったでしょうと、過去の自分の言葉が正しかったという事を、深い溜め息を吐きながら言うに違いない。

 いくら穏やかになったとは言え、そういう部分は変わってはいない。花音はそう思っていた。


 しかし、母の口から出た言葉は意外なものだった。


「これからどうするの?」


 だから言ったでしょうと言うでもなく、ほら見なさいと言うでもなく、心配そうにどうするのと訊いて来たのだ。


 花音は目を丸くし、頬杖をついたままの母を見つめる。