To.カノンを奏でる君

 そんな祥多の思いに気づいたのか、美香子はあぁ、と小さな声を上げて笑った。


「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私は葉山美香子。中3後半からの付き合いだから、花音ちゃん達ほど深い付き合いじゃないの」

「……俺、お前知ってる」

「え?」

「お前の声、聞いた。ずっと俺に付き添ってたの、お前だろ」

「祥多、君?」


 予測もしない言葉に、花音は美香子から離れた。


 驚いた様子で、二人を見つめる。


 本当に、嫌な予感がした。ずっとしていた胸騒ぎは、祥多の記憶喪失じゃない。

 花音はそんな風に感じ取っていた。


「何か懐かしい匂いがする…。付き添ってくれて、ありがとう」


 ここでやっと笑顔を見せた祥多に、花音は衝撃を受けた。


「お礼なんて要らない! 私が勝手にした事だし」

「いや、でも嬉しかった。あったかい感じが、今でも残ってる」

「祥多君……」


 良い雰囲気の二人を、花音は直樹の傍で見つめていた。


(何で……?)


 二人を見て、花音は思う。


(何で私じゃないの?)


 確かに、この三年間付き添っていたのは美香子だ。しかし、花音も中学の時は美香子のように付き添っていた。

 そして何より、幼少の頃からずっと共に成長して来たのは、他の誰でもない。草薙花音なのだ。


 それなのに、と花音は唇を噛む。

 美香子より長く傍にいたのは自分なのにと、花音は嫉妬の念に駆られた。