To.カノンを奏でる君

 そんな祥多の姿に、花音は苛立ちながら両肩を掴んで揺すった。


「忘れたの、私の事…。ずっと一緒だったじゃない。ピアノも教えてくれた。カノンだって弾いてくれたじゃない…!!」


 大切な幼なじみ。

 ピアノは、二人を繋いだ大切な架け橋だった。そんな大切な事を忘れてしまったと言うのだろうか。


「何の為に、私は…っ」

「花音ちゃん」


 そっと花音の肩を抱き、祥多から離す美香子。

 嗚咽を漏らして泣き続ける花音を、美香子は優しく抱き締めた。


「とりあえず落ち着いて。祥多君も混乱してるから」

「うっ……ひっく」

「悔しいよね。手術が成功したらって、約束してたんでしょう」

「ゔぅ~~~」


 よしよしと背中を擦る美香子に甘え、花音は疲れるまで泣き続けた。


「祥多君。この草薙花音ちゃんは、祥多君の大切な幼なじみ。お隣のお家に住んでるの」


 泣き終えても花音は未だ美香子の腕の中に収まっている。


 祥多と向き合う事が怖くて、逃げているのかもしれない。直樹はそんな事を思いながら、心配そうに花音を見つめていた。


「そして彼も、祥多君の大切な幼なじみ。花園直樹君。――小学校からの付き合いだっけ?」

「ええ」


 間違いはないかという風に目を向けた美香子に、直樹は気落ちした様子で頷いた。


「祥多君が凄く大切にしていた幼なじみだよ」


 説明をし終えたような美香子に、祥多は訝しんだ。祥多にはもう一人、ちゃんと紹介を受けていない人物がいる。


 葉山美香子、本人だ。