To.カノンを奏でる君

「凄いね。いろんな表情があって」

「でしょう? 凄く尊敬してるのよ」

「うん、分かるなぁ。私も祥ちゃんの事、凄く尊敬してたから」

「……過去形なのね?」

「今の祥ちゃんじゃ、ピアノは弾けないでしょ」

「ノンノン……」

「あ、これ凄く良い!」


 花音が指差したのは、セピア色した写真。


 貧しい国に住んでいるのだろう。着ている服がボロボロで、写っている母親も子供も、上半身は何も纏っていなかった。

 けれど、傍に立つ子供を見つめる母親の目がとても温かく、心打たれる一枚だ。


「あったかいね」


 笑う花音の横で、直樹も満足そうに笑っていた。


「ほう。お目が高い」


 突然後方から聞こえた声に驚き、二人は勢い良く振り返った。

 そこに立っていたのは、花音よりも小柄な、髭で顔が覆われた男。


 アウトドアな格好をしている。歳は五十、六十頃だと見受けられるその男は、髭に覆われた口許を緩めた。


「君が……うん、思った通りの子だ」

「え?」


 男の意味深長な言葉に花音が首を傾げていると、直樹が一歩前に出た。


「山重さん! いきなり現れないで下さい!」

「あっはっは! いやいや、記念すべき今日初めてのお客さんの顔を一目見ようと」

「後ろ姿で分かるでしょう! チケット下さったの、どこのどなたですか!」