To.カノンを奏でる君

(恐れ入ります)


 こんな時はいつも花音の方が上手だという事すら忘れかけていた直樹は、更に深い溜め息を吐いた。

 それから置いて行かれないように花音に駆け寄る。


「楽譜は?」

「無かった」

「じゃあどうするの?」

「今度注文しとく。さ、私の用は終わり。直ちゃん、どこ行きたい?」

「そうねぇ。春物の新しいワンピがほしいわ」

「あはは、オッケー。じゃあ服見に行こ」

「何かこう、膝より少し上の悩殺ワンピがいいわね」

「悩殺……え、誰を?」

「いい感じの男を逆ナンするのよっ」

「本気?」

「本気! ノンノンもいたら最強タッグよ! やんない?」

「やんない」

「祥ちゃんより良い男捜しましょーよ」

「もう」


 そんな事を言い合いながら、二人は昔のように並んで歩いた。















 昼食を中で摂った二人は、ショッピングモールを後にした。

 直樹が今日デートに誘った本来の目的があるのだと言い、花音を誘った。


 この近くでやっているからとてくてく歩いて行くと、小さな建物の前までやって来た。

 真っ白で、特に印象も残さない建物。唯一の特徴と言えば、鉄製の階段があるくらいだ。


 そしてそのすぐ近くに深緑の看板が立っている。


「山重友克写真展」


 書かれている文字を噛み締めるように読む直樹。

 花音は首を傾げて直樹を見上げた。

 そんな花音に気づいた直樹がこの上なく嬉しそうに笑って言った。


「アタシがカメラマンを目指すきっかけをくれた人」


 初めて聞く言葉に、花音は目を丸くした。