To.カノンを奏でる君

「男でも女でも、私にとって直ちゃんは直ちゃんだよ。直ちゃんが男になるって決めたならそれはそれでいいし、親友である事は変わらないよ」


 何かを言いかけた直樹を遮るように、でもねと花音は続ける。


「今の直ちゃんは無理してるのがバレバレなの。つらい気持ち隠して男になろうとしてるのが分かるの」


 痛い所を突かれた直樹は押し黙った。


 無理してるという自覚はない。しかし、少し息苦しさを感じているのは事実だ。


「私、大丈夫だよ」

「え……」

「一人でも大丈夫だよ。相手なんかいなくてもつらくないよ」


 気づかれていると、直樹は悟った。自分も決意も全て。


 目覚めない祥多の代わりになろうとしていた事。花音にはお見通しだった。


「私は自分で、自分の幸せを見つけるから。直ちゃんは見守ってて。迷ったら手を貸して。それだけでいいから」


 花音はにっこり笑い、直樹に告げた。

 それを受けた直樹は俯き、拳を握る。


(何を勘違いしてたんだろう)


 花音には相手が必要だと思っていた。


 相手がいなければ、幸せになれないと。寂しさに独り泣いてしまうだろうと。勝手にそう思い込んでいた。


(親友失格ね、アタシ。ノンノンの芯の強さを忘れるなんて)


 三年前も今も、花音は弱そうに見えて実は芯が強い。


 分かっていたのに忘れてしまっていた。

 だからこそ自分はこんなにも眩しく花音を見つめているのだと、直樹は思い出す。