まずはショッピング。そう言った直樹に、花音はそういえばと声を漏らした。
「欲しい楽譜があった」
ちょうどいいと思いながら、二人は町に唯一あるショッピングモールに向かった。
ショッピングモールとはいっても、何階もあるような大きなものではない。
二階までしかない、都会と比べれば小さなショッピングモール。
町の端の方の位置するそのショッピングモールは、バスに乗って行っても三十分かかってしまう。
そのせいか、花音も直樹もあまり行かない場所だ。
ショッピングモール前のバス停で下車し、まっすぐに中へと踏み入れた。
「で、どこ寄るの」
花音の問いに、直樹はにっこり笑って花音の手を取った。
ご希望通り、まずは書店から行きましょうかと直樹は言う。
花音は頬を染め、ふいと顔を逸らした。その動作を見逃さなかった直樹は花音の様子を窺う。
心配そうな直樹に気づき、花音はぼそりと呟いた。
恥ずかしい、と。
何が恥ずかしいのだろうかと思案していた直樹だったが、すぐに合点がいった。
繋いでいるこの手だ、と。
昔は直樹が女として振る舞っていた為、手を繋ぐ事は普通だった。しかし、今の直樹は外見の性別に従った服装をしている。
これでは花音も昔のように接する事が出来ないのだろう。
(花音は男に免疫がないからなぁ)
とうとう離されてしまった左手を見つめながら、直樹は苦笑いを浮かべていた。



