オペ室の前まで着くと、ソファーに座っている祥多の両親がいた。


 手術中のランプは消えている。ごくりと唾を飲む。


 泣きわめいている祥多の母。一緒に涙している祥多の父。

 握った拳がカタカタと小刻みに震える。

 感じるのは、背中が冷たくなっていく感覚。


「お……おば……さん」


 花音の声に反応して、祥多の母は顔を上げた。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔に、花音は青ざめた。


「しょ…ちゃ、大丈夫……だよ…ね…?」


 信じたい一心で、呂律が回らないながらも問う。

 祥多の母は更に表情を崩して花音に抱きついた。


「かのっ……ちゃ……」


 しゃくりを上げながら懸命に祥多の母は事実を紡ごうとする。


「祥多…、祥多ね。祥多……っ」


 耳許で掠れ、消えてゆく言葉を花音は捕らえた。


 目の前から、色が消えた。真っ暗な闇の中に一人放り出される。

 誰もいない、孤独な闇の世界。


(嘘だ……)


 花音は座り込む。つぅっと涙が一筋伝う。

 重力に沿って落ちた涙の粒は、制服のスカートに小さな染みを作った。


「嘘……だ」


 カタカタと震え出す体。

 聞かされた事実は、とてつもなく大きく、冷たく、重い。少女が背負うには重すぎる。