「美香子ちゃんも、眠れなかったんだね」

「え?」


 花音はそっと美香子の目許に触れた。寝不足の証拠である隈が出来ている。

 美香子はカァッと顔を赤くし、後退った。


「き、気安く触んないでよねっ!」


 先からずっと動揺している美香子は、自分でも何が何だが分からない状態だ。


「と、とにかく! 今日一日は祥多君の手術の成功を祈ってればいいのよ、花音ちゃんは!」


 顔を真っ赤にしたまま、美香子は箒をロッカーに戻しに行った。

 花音は自然と笑みを浮かべる。ほんの少しでも美香子との距離が縮んだように思えて嬉しいのだ。

 これであとは、祥多の手術が成功するだけ。花音はそう思い、ぎゅっと拳を握った。















 その報せが届いたのは、最後の授業が終わる頃だった。


 国語の先生が受験対策問題を出題した。

 居眠りしている数人の男子に、ひそひそと言葉を交わす女子。他の生徒逹は受験生らしく黙々と問題を解いている。美香子もその中の一人だ。

 花音と直樹は合格していながらも、他の生徒同様に黙々と問題を解いている。


 すると聞こえて来る慌ただしい足音。それは教室の前で急停止した。

 生徒逹が顔を上げるのと扉が開くのはほぼ同時だった。

 顔を出したのは、血相を変えた教頭の姿。教頭は息を切らしながら教室を見回す。


 そして捕らえた、花音の姿。