本当にいつまで経っても他人を思いすぎる。もっと自己中心的に生きていいと、二人は思っている。

 もっとワガママを言って弱音吐いて八つ当たりして。困らせるくらいしていい。

 しかし祥多はそうしない。いつも自分の中に閉じ込めて自分でどうにかする。


「直ちゃん」

「ん?」

「怖い…」

「うん。アタシも怖い」


 花音はそっと握った手を握り返す手に少し安心した。

 張り裂けそうな思いは、二人で分かち合う。そうする事で、花音も直樹も言い知れぬ恐怖感の中でも動く事が出来ていた。

 歩く事が、学校に行く事が出来ていた。


 強張った表情を崩せないまま二人はひたすら歩き続け、やっと学校へと辿り着いた。


 教室へ入るとすぐ、掃除をしている美香子と目が合う。

 直樹は珍しい物を見るかのように美香子を見つめる。


「へぇー。葉山さんが掃除をねぇ」

「な、何よ! 早く来すぎて暇だったからっ」


 美香子は真っ赤になって反論する。

 驚きを隠せない直樹の隣で、花音は素直に感心していた。


「凄いね、美香子ちゃん。私は早く来ても掃除しようなんて思わないよ」


 思わぬ花音の言葉に、美香子は動揺する。

 恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちでいっぱいだ。いっその事、直樹のように驚いてくれた方がいい。