笑顔溢れる未来があるのだという事。一点の疑いもなくがむしゃらに信じて欲しい。

 そう思っていただけに、祥多の言葉は直樹を傷つけた。


「直。本当に、もしもの時は花音の事…よろしくな」


 どうしてそんな風に笑えるのかと思うほどに、祥多は優しく微笑んでいた。


 直樹は薄く浮かんだ涙を掬う。さすがの祥多も申し訳なさそうに謝る。


「ごめんな。こんな事頼んで」

「本当よ。アタシの事傷つけたといて……精一杯頑張んないと怒るわよ」

「おう」


 手紙を預けて安心したのか、祥多はゆっくりと横になった。

 直樹はシーツを被せてやり、こちらに背を向けて寝入る祥多を見つめていた。

 再び泣いてしまいそうになり、首を横に振る。


 自分より祥多がつらい。花音がつらい。

 そう思うと、涙は止まれど胸が痛んだ。


「強くならなきゃなぁ…」


 小さくぼやいた直樹の背中も、祥多同様に小さなものだった。















 由希に誘われ、花音は二階の喫茶店に足を踏み入れた。

 ゆったりとした空間、穏やかなクラッシックに戸惑いを隠せない。

 何せ、滅多に踏み込まない場所だ。


(あ、花の歌)


 知っている曲が流れ、花音は心が落ち着くのを感じた。


 ピアノを始めてから、いつの間にかクラッシックを聴くと落ち着くようになっていた。