To.カノンを奏でる君

「食べよ、みんなで」


 そのココアクッキーも。そう言った花音に、美香子はやっと笑みを零して頷いた。

 祥多が直樹に飲み物と言うと、直樹はハイハイと返事をしながら冷蔵庫を開けた。

 花音は平たいタッパーに入ったトリュフを真ん中に置き、マフィンを配る。

 一つ余ったマフィンはおばさんに、と花音は机の脇に置いた。それからパウンドケーキを切り分け、紙皿の上に乗せる。

 美香子はクッキーを紙皿に出してどこに置こうかと迷っていると、直樹がそこでいいんじゃないと助言した。

 驚いた表情を見せながらも渋々頷いた美香子を見、花音と祥多は顔を見合わせて笑った。














 和気藹々としたバレンタインパーティーを終えた花音ら三人は、家の事をやらなければならないと先に帰った美香子を送り出し、皿やコップの後片付けをしていた。


 祥多はあまり動かずに机の上を片づけている。


「楽しかったねー」


 紙皿、紙コップを処分しながら花音が言った。

 祥多と直樹は笑顔で花音を見つめる。


「それにしても、あのノンノンの言葉にはジーンと来たわ! 惚れちゃうわね、うん」


 床の屑拾いをしている直樹が力説した。花音は苦笑して直樹の方を見る。


「美香子ちゃんが本当はいい子だって事くらい、分かってるんでしょ? 直ちゃん」

「私はノンノンの味方なんですー」


 尤もらしい事を言って直樹は再び床との睨めっこを始めた。