「バッチリ撮らせてもらうわ」


 いつの間に取り出したのか、直樹の右手にはしっかりと愛用のカメラが握られていた。

 花音は、ハイハイと生返事をして視線を直樹から外した。


 車が一台通れるほどの道路脇を歩く二人以外、誰もいない。辺りは静まり返っている。

 この辺りは家も少なく、その少ない家々の中でも子どもはあまりいないのだ。

 だからこの登校時間に子どもの姿は見受けられない。この近所で子どもと言えば、花音と祥多くらいだ。


「じゃあこれからアタシの家に行くわよ。お菓子作りの材料はあるから」

「はーい」

「レッツゴー!」


 直樹は軽快な足取りで、つい先程出て来た自宅に花音を伴い、舞い戻った。















 花音の家から歩いて20分の場所に、直樹の家は建っている。


「さ、どーぞ」

「お邪魔します」


 玄関で二人は靴を揃え、家の中に入る。

 向かってすぐのリビングに足を踏み入れると、フローリングの上に何枚もの紙が散乱していた。


「ごめんね、散らかってるけど」


 そう言いながら直樹は、散らばっている紙を拾い集める。花音も協力し、共に紙を集め始めた。


「指輪…?」


 花音が手に取った少し厚いデッサン用の紙には、指輪のデザインが描かれていた。


「春に向けての新しいデザインを考えているのよ。今回は若葉をイメージするようなデザインにするとか言ってたわね」