「そんな事ないわよ。だんだん認めてくれてる」

「え?」

「例えワガママだったとしても、風邪のノンノンを病院まで連れて行ったわ。それって、前のおばさんだったらしてくれなかった事よね」


 確かにそうだ。直樹の言っている事は正しい。

 花音は押し黙り、何やら思案している。


「大丈夫よ。母親は最後は結局味方してくれるんだから」


 にっこりと笑って諭す直樹に、花音は大きく目を見開いた。

 直樹の言い方に、気づくものがあったのだ。


「直ちゃん、おばさん…!」

「ふふ。認めてくれたわ、カメラマンの夢」

「おめでとう!」

「ありがとう。ノンノンとタータンのお陰よ」

「私、何もしてないよ。でも本当に良かった、私が嬉しい!」


 自分の事のように喜ぶ花音を横目に、直樹は幸せそうに微笑む。


 それは昨夜の事。突然、母が尋ねて来たのだ。

 本当にカメラマンになりたいのかと。真剣な面持ちで頷くと、母は小さく息を吐いて苦笑した。なら頑張りなさいと。

 相変わらず父は許してはいない。しかし、母は許してくれた。その事だけでも直樹は嬉しかった。


「て事で、今日のような特別な日にはカメラマンが必要よね?」


 含み笑いをしている直樹に、花音は顔を引き攣らせた。


(そう来るとは…)


 花音は深々と溜め息を吐き、項垂れた。