いや、異性だという事を再確認するのだ。そしてお互いもう幼い子どもではない。


「あ、ありがとう」


 ぎこちなく礼を言う花音に、祥多は自分の口にした言葉を深く考え、顔を真っ赤にした。


「変な意味じゃねーからな?!」


 妙に焦る祥多に、花音も真っ赤なまま頷く。

 それから沈黙が流れ、これ以上はいられないと感じた花音はカバンを持ち上げ、右肩に提げた。


「か、帰るね」

「おう、あんがと」

「また明日」


 病室から出、エレベーターに向かって歩き出す。


 思わず右手で右頬に触れた。顔が熱く、速まる動悸にどうすればいいのか分からない。


(祥ちゃんはダメ。好きにはならない。なっちゃダメ)


 花音は心の中で繰り返す。


 子ども達の楽しげな声が聞こえる病室、子ども達の苦しげな声が聞こえる病室。

 花音はそれらから目を逸らして歩く。

 頑張っている子ども達から目を背ける事は、健康な花音がして良い事ではない。

 健康であるからこそ、病気と闘う子ども達から目を背けてはいけない。

 しかしどうしても、全ての子ども達が祥多に被り、居たたまれない。


「祥ちゃん…っ」


 ──何故。何故……。


 ポタポタと塩分を含む雫が、床に落ちては小さく広がる。

 口許を押さえ、低い手摺に捕まってしゃがみ込む。