To.カノンを奏でる君

「大丈夫。起き上がれるほどに回復してるから。今、中におばさんと葉山さんがついてる」

「そ…っか」


 安心したように花音は笑みを零した。


「それよりノンノンは大丈夫なの? こんなフラフラして、体も燃えてるみたいに熱いわよ」

「ん、平気」


 熱のせいで赤い顔をしている花音を怪訝そうに見つめ、チラリと花音の母を見やった。

 直樹と目があった花音の母は、複雑そうな顔で直樹を見つめ返した。


「風邪引いてるのに病棟なんて訪れたら患者さんに迷惑だって言ってるのに聞かないのよ。すぐ帰るからって」

「本当だよ。すぐ帰るから、そうカリカリしないで」


 病院に着くまでに何度も口にした言葉を、花音は再び口にした。さすがの母もお手上げ状態らしい。


「ね、ノンノン」

「ん?」

「明日……」


 直樹の言葉を遮るように病室の扉が開いた。

 中から美香子が出て来て、花音を冷酷に見据える。後ろ手に扉を閉めた美香子は、一歩一歩花音に近寄る。

 一方、花音は美香子の負の雰囲気に圧されて一歩下がる。


「何でここにいるの? 風邪引いてるんでしょ?」


 心なしか美香子の声音は低く、言葉は刺々しい。


「風邪引いてるのに病棟に来るなんて不謹慎じゃない? 免疫力のない患者にとっては風邪一つが命取り。祥多君の近くにいた花音ちゃんなら知ってるよね」