To.カノンを奏でる君

「それで……それで今、祥ちゃんは?!」

「一応落ち着いたからって、お昼頃に直樹君から連絡があったわ」

「そ……か。あぁ、良かったぁ」


 花音は安心して力んで上がっていた肩を撫で下ろした。


「でも、でもね」

「え?」

「祥多君──」


 母から告げられた言葉に、花音から表情が消えた。
















 直樹は病室の外のソファーで一人項垂れていた。

 中には美香子が祥多にべったりくっついており、見ていると苛立ちばかりが募り、耐えられずに出て来たのだ。

 先ほど購入した缶珈琲が温くなっている。


 祥多の状態は日を増す毎に悪くなり、せっかく許可をもらえた学校登校は已むなく中断された。


(これからどうするの、タータン)


 直樹は心の中で呟く。

 こんな状態に至った今、祥多は何を考え、どうしようと考えているのか。直樹は一抹の不安を覚える。

 深い溜め息を吐いた、その時だった。


「直ちゃん……っ」


 自分より高く柔らかな声が、直樹を呼んだ。

 その愛称は八年前から変わらず、ただ一人の少女だけが呼ぶ。


「ノンノン…!」


 直樹もまた、八年前から自分しかそう呼ばない愛称で少女を呼んだ。


「祥ちゃんは…?」


 よろよろと歩いて来る花音の元に歩み寄り、花音を支えた。花音の傍らでは、花音の母が心配そうにしている。