「ないよ」

「そうよねぇ。何となく訊かないままでいたんだけど、今年は訊くわ。どうしてあげないの? 義理って言ってあげればいいじゃない」


 直樹の言葉に、花音は静かに終わりかけの冬の夜空を見上げた。そうして見つける事が出来るオリオン座。

 花音は三つ星を中心としたその美しい星座を見つめ、感慨に耽る。


 幼少からのこの時期の事を記憶の中から引き出し、直樹に話す。


「祥ちゃんね、誰からも受け取らないの。バレンタインチョコ」

「え?」

「初めてあげようって思ったのは小5の時。市販チョコだったんだけどね。あげようとしたら、他の女の子が祥ちゃんにチョコ渡そうとしてて。でも祥ちゃんは受け取らなかった」

「受け取らなかった?」

「“好きな子からしかもらわない”って。私、その子が行ってしまった後に訊いたの。本当にそう思って受け取らなかったのか」


 ふぅっと一息吐き、再び言葉を紡ぐ。


「“病気をちゃんと治してからの楽しみに取っとくんだ”って祥ちゃん言ったの。あの時は単純に納得してたけど、違う。きっと祥ちゃんは昔から感づいてたの。自分の余命の事」

「……っ」


 直樹はつらそうに顔を歪める。


「だから、受け取れなかった。誰からも」

「余命の事に感づいていたなら、普通は受け取るんじゃ…」

「何て言えばいいのか分からないけど、想いを受け止められるだけの自信がなかったんだと思う。受け取ったら、その女の子の想いを背負わなきゃいけないでしょ」