To.カノンを奏でる君

「はい、祥ちゃんの」

「あ……サンキュ」

「どういたしまして」


 花音を真ん中に挟み、並んで噴水に座る三人。

 花音はホットのミルクココアで、冷えた両手を温める。


「ノンノン、手袋つけないの?」


 珈琲を飲み、花音の手元を見て直樹は尋ねる。


「へへ、忘れちゃった」

「んもう、そそっかしいんだから」


 そう言って、直樹は両手で花音の両手を掴む。


「わ、あったかーい」

「さっきまでインポケットでしたからね」

「わぁーい」


 子どものようにはしゃぐ花音。優しい眼差しで花音を見つめる直樹。

 祥多には、直樹が花音に男としての好意を抱いているようにしか見えない。

 花音を見る時に垣間見せる眼差しは、男のものだと祥多は思う。

 いくら“女”を表に出していようとも、一瞬にして切り替わる。戸籍上、直樹と同性である祥多はそう感づいた。


「体が寒いからぎゅってしてもいい?」


 そう尋ねた花音だったが、直樹に先を越されてしまった。


「へへ、あったかい」


 直樹にはすっかり心を許しているようにしか思えない。

 祥多は直樹を羨ましげに見つめた。


 花音と普通の幼なじみ、普通の友達でいる事は不可能なのだろうか。

 それはもちろん、告白したりしたい。堪らなく好きなのだ。しかし、どうしようもない。