――息を潜めて、追われる者を追う者がいる。





辺りは真っ暗な闇。


唯一の灯りは月だ。


だけど今は、そんな月も雲に覆われつつある。


あぁ、今日はとてもキレイな月だったのに。


「…なかなか、動かないですねぇ」


ふと、前にいる沖田さんが呟いた。


「そうですね…」


今、私は初仕事の真っ最中。


仕事の内容は、沖田さんと二人で辻斬りの始末及び拘束。


『だいたい目星はついている。途中まで山崎を送る。その後は二人で仕事をすましてくれ』


夕方、仕事の最終確認で初めてあった山崎さん。今は私たちとは別行動している。


そして、私と沖田さんは長州の辻斬りと疑わしき輩が建物に入っていたので向かいの物陰に隠れて待ち伏せをしている。


「飽きてきました」


さっきからこの人はこんなことばかり言っている。


なんて返せばいいかもわからない言葉に戸惑いつつ「そう、ですか…」と繰り返して何回目だろうか。


時計、というものがないこの時代。


向こうの時代で体に刻んだ時計のリズムで…約一時間だろうか。


動く気配が全くない。


建物に人がいるのか、疑ってしまう。


それぐらい静かだ。


「疲れました。桜さんなにかして下さい」


「…無理です」


「何でですかー」


「仕事中ですよ」


しかも私にとって初仕事。


絶対にへまをするわけにはいかない。


一応、住むところを与えてくれた新撰組の方にお礼を…したいっていう気持ちもある。


なのに沖田さんがこんな調子だと緊張感がなくなってしまいそうだ。