先輩の顔が歪む。
――先輩にそんな顔をさせたのは私だ。
それからは、静かな時間が訪れた。
しばらくして、私は先輩に言った。
「…そう言えば、先輩は今どこに住んでいるんですか?」
先輩の身形(みなり)は現代の服装だ。
つまり、私と同じく袴を着ている。
と、言うことは提供者がいるはずだ。
そう考えて訪ねてみると案の定、先輩はこの時代に飛ばされて気を失っているとこをお初さんとゆう女性に助けてもらったらしい。
「んで、住まわせてもらっている代わりに、お初さんが経営している甘味処のお手伝いをしてるってわけ」
「成る程…、その甘味処ってどこにあるんですか?」
せっかく会えたのに居場所を教えてもらわなくては二度と会えなくなってしまうかもしれない。
京都のどこかにいたとしても、会える可能性はわからない。
その証拠に、私たちがこの時代に飛ばさせたのはおよそ一ヶ月前。
一ヶ月もあったのに、今日この土地で初めて会った。
とここにきて先輩は何かを思い出したように声を上げた。
「やべっ…そういや俺このあと店番頼まれてたんだった」
「え、それやばいじゃないですか」
「ああ…、今日は特に忙しそうだったから…んじゃ、俺そろそろ行くな!」
そう言って、爽やかな笑顔を残して去っていった先輩。
と思いきや、数メートル先に進んだらいきなり立ち止まり、こちらに振り返った。
なんだ?と思っていたら、大声で「俺はお前とぶつかった甘味処で働いてるからー!」っと言って、今度こそこちらを振り返らず足早に帰って行った。
先輩がいる場所がつかめた。
今日はそれだけで収穫大だと思う。
私は彼の後ろ姿が見えなくなるまで、そこに佇んでいた。