「そんなに上手くな
かったし。理由とか
ないです。なんとな
く」
「ふーん、もうやん
ないの?」
聞かれて、一瞬、息
がとまる。べつにテ
ニス部に未練がある
わけじゃあない。こ
のみと一緒に過ごし
た時間がかけめぐる
。基礎トレがきつく
て、やめかけた時、
励ましの電話をもら
ったこと。試合で負
けた帰り道、しりと
りしながら泣いたこ
と。おそろいで買っ
た、孔雀(くじゃく)
の羽根みたいな色の
ラケット。隣町のス
ポーツ店で一日がか
りで選んだ。ふわふ
わと浮かんでくる思
い出をとじこめるべ
く口をひらいた。
「はい」
そうかそうか。人の
気も知らないで常居
はケタケタ笑う。



