「渡瀬中ってね。今
までに何人か、自殺
してるんだって」
五色橋を渡りきり、
暗闇を指さして、彼
女はそんなことを言
う。ブタは自殺とい
うせりふにギクッと
した。彼女の顔色が
暗くはないことを確
認して、ほっとする
。
「嘘だあ」
「嘘じゃないよ」
にやっとして、髪に
ふれる。肌なじみの
よい風がひらひらと
浴衣のすそをもちあ
げる。地の色は、た
よりない白で、鮮や
かな紫やぼけた藍の
朝顔がみずみずしく
開花している。
数十分前、橋の上
でその姿を目にした
ブタがほめると、
「ほんとはゲタがは
きたいんだけどね」
と彼は、はにかんだ
笑みをみせた。
「はけば
いいじゃん」



