「……何なんだ」


ブラッドはいつもの仏頂面で自分の部屋のベッドを見た


別に不満はない
ただ不思議なだけだ


アパートに帰るとブラッドの部屋にディンがいた
勝手に部屋に入って居ることはあまり珍しくはない

しかし、ディンは枕を胸に抱えてベッドに横になっている
子供のような行動に首をひねって声をかけたのだ


「………」

「ディン?」


クルリと寝返りをうってディンはベッドの側に立ったブラッドを見上げる


「僕は……アイツ嫌いだ」

拗ねたように覇気のない声でポツリと呟いた


「……大嫌いだ」



『アイツ』が誰なのかブラッドは分かったが、また首をひねった


アイツ……フェイトと喧嘩でもしたのだろうか?


ディンがあんなに他人をかまっているのは珍しい
マインドコントロールが効かないことや、人間であるということに興味があるといっても、あのかまい方は珍しかった


バンパイアの子どもは成人するまで人間には極力会わないように生活している
だから、2人がまともに見た人間はフェイトが初めてだ


しかし、ディンはフェイトが嫌いだと呟く


「俺はお前が分からない」


ブラッドは正直に疑問を投げ掛けた


「僕はブラッドのこと分かってるからいい」


それは力強く言った


「何がいいんだ?」



よくわからない弟にブラッドはため息をついた



*******



フェイトは夢を見ていた


記憶も曖昧なほど幼い頃のことだと、何となく思った


『フェイト……コレは運命なのか?』


養父だ


何故だろう?
ひどく哀しげな表情だ

薄い水の幕を張ったような淡い夢の中のオヤジの手に銀の髪留めが握られている


それを愛おしそうに、でも切なげに握り締めている
瞬きをすれば、景色は変わる
コレはフェイトの記憶にはっきりとあった


5、6歳のフェイトに視線を合わせるようにオヤジは膝をついている
その手には銀の髪留め



『フェイト、これを付けなさい。約束だ。絶対にこれをはずさないと、約束だ』



夢の中のフェイトは素直に頷いた