「ありがとう」
突然呼ばれて振り向けば、フェイトがいる
走って来ていたのは気付いていたが、開口一番に礼を言われて軽く驚いた
フェイトは真っ直ぐにブラッドを見て笑う
そこで気付く
今までブラッドは、まともにフェイトと目を合わせていなかった
色素の薄い金の眼をしている
「遅くなったけど、ありがとな。わざわざ飯用意してくれて」
「いや……いいんだ」
ベステモーナを止められなかったのはブラッドにも責任がある
「まっ、それだけだけど。じゃあな」
フェイトはそれだけ言うと手を振った
本当にお礼を言いに来ただけだったようだ
元の道を歩いて廊下の角に消えたフェイトを見送って、ブラッドはポツリと呟いた
「……変な奴だ」
*******
フェイトが来た道を戻り、階段の所まで行くとそこにディンがいた
「悪い、待たせたな。帰るか」
フェイトが声をかけると階段の上、手摺りに頬杖を突いたディンは笑った
その様子が少し、いつもと違って見えてフェイトは立ち止まる
階段の半ばから見上げるようにディンを見た
「フェイトと一緒に索敵係したかったなぁ」
先程の話をしているのだろう
まるで、幼い子供の駄々のようにディンは呟く
フェイトはディンの瞳を見て一つ瞬く
直ぐにため息をついて呆れたように肩を落とした
「何言ってんだよ」
フェイトは階段を上がりきって、言いながらディンの隣を通り過ぎる
「お前が一緒に居たいのは俺じゃないだろ」
その時ディンがどんな表情をしたのかフェイトには見えなかった
手摺りから手を離して動こく気配のないディンに振り向いた
「ほら、帰るぞ」
ディンは珍しく戸惑ったような、複雑な表情で立ちすくんでいた
しかし、直ぐに無言で歩き始めたのだった


