「ディン、これは?」


ブラッドは軽くディンを睨み付けた
しかし、ディンは飄々と笑う


「お腹空いてると思って。僕も正直キツいんだよ?」


ディンは何処に隠し持っていたのか、ブラッドに投げて渡した血液パックをもう一つ取り出してベッドに腰掛けた


「面倒な掟だけど、僕は破るつもりはないからね」


ディンは言いながら血液パックに付属のストローを刺して吸い始める
ブラッドは手にした深い紅色のパックに視線を落とした


それは人の血ではない
メディアでも数少ないバンパイアの為の獣の血だ
苦い気分でブラッドはそれにストローを刺す


喉の渇きは無くなったわけではないからだ


「それにしても珍しいね。たまたまとはいえ、ブラッドが看病してあげるなんて」

「運んだだけだ」

「ふーん」

「なんだ?」


ディンは相変わらず何かを楽しむように笑っている
が、その瞳は酷く冷めていた


ディンがそういう表情をするのは珍しい事ではないが、最近はあまり見ていなかった


「ブラッド、今度クラス対抗戦の話あい行くの?」


一つ瞬けば、ディンの瞳はいつもの色に戻っている
話をわざとそらしたのだろうか?


「出るだけだ。対抗戦自体には興味ない。それに勝手に役割を任されるだろう?」



ブラッドはそれを任せてくるだろう張本人の足音が聞こえた


「アイツガ」

「ああ」


ディンにもその音が聞こえたのか、納得したように頷く


Aクラスには入学式からヤル気に満ちあふれている奴がいるのだ
きっと余計なリーダーシップを発揮することだろう


「失礼するわ!」


ベステモーナはフェイトの部屋の扉を蹴破る勢いで部屋に入って来た


その手には小振りの鍋がある


「あら、サバティエ弟君もいらしたの?」

「弟ってなにさ!せめて名前で呼んでよ」

「すみません。急いでいたもので」


ベステモーナはフゥッと息をついて額の汗を拭う
そこでディン達は気付く
ベステモーナはエプロン姿だ
それ自体におかしい所はないが……