水の球体の中、フェイトはため息をつく
白い靄のかかったその中では外の様子をうかがえない
ブラッドは無言
居心地の悪い空気が流れていた
「なんか……こんなことばっかだな」
冗談まじりに笑ったが、重い空気を変える事は出来なかった
「こっちの世界じゃ、こんなの当たり前なのか?」
「……」
「な、わけないか……じゃあ、俺の巻き込まれ体質がスゴすぎんのかな?」
渇いた笑いをこぼしても、ブラッドはフェイトから目をそらしたまま口を閉ざしていた
しかし、不意に呟く
「……お前はバカだ」
「……それ、リーバにも言われた」
「……お前はわかってないんだ、フェイト」
紅い瞳が真っ直ぐにフェイトを見た
「巻き込んでるのはお前だ。お前の不思議な力にみんな巻き込まれる」
「……なっ!」
「サクリファイスなんかになったら、もっと酷い事になる!」
言い返そうとしたフェイトはブラッドの剣幕に口をつぐむ
怒りと困惑とがない交ぜになった複雑な表情を浮かべた顔は険しく歪められていた
こんなに感情を顕にするブラッドは初めて見た
「お前はそんな地獄に自ら足を踏み入れようとしてるんだぞ!」
フェイトが息をのみ、何事か吐き出そうとした
その時、ハクロンの声が響いた
「これから結界をはる。その様子は見せられない。しばらくしたらこの中からは出してやる。それまでは大人しくしていろ」
途切れたハクロンの声
フェイトは喉の奥から出かけた言葉を見失ってしまった
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メディアの制服を着た5、6年生が海の上に立っていた
その地点はコウガの結界をはる中継点だ
メディアの学生から集められた精鋭達が結界の媒体となるために、そこに待機していた
魔方陣の上に立つ生徒はやや遅れている結界の発動に手持ちぶさただ
1人の生徒がひそりと隣の生徒に話し掛けた
「遅いな、トラブルか?」
どこか高揚したような調子の生徒を嗜めるように言った
「遊びじゃないのよ?集中しなきゃ」
「でも、今回のことおかしいと思わないか?異例尽くしだ」
それには反論はなかった
こんな大規模な魔法に関われるのは光栄な事だが、それが異例だということは誰もが疑問に思っただろう


