ハクロンが何事か呟けば、フェイトとブラッドは球体状に変化した水に包まれる
「少々強引だが、こちらも時間がないのでね」
ディンが射殺しそうな目でハクロンを睨む
今にも飛び掛かりそうなディンの腕をリーバは無言で掴む
その視線を撫でるようにいなしてハクロンは指を鳴らした
水滴が垂れる
ポチャンと天井に水滴が垂れたような波紋が起こった
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「また面倒な事を」
紫煙がくゆる薄暗い一室
部屋中に張り巡らされた木の根と、魔方陣から浮かび上がる彼女の洋館の映像
それを眺めてオーナー、マックスは気だるげに1つの魔方式を完成させる
それが発動した次の瞬間
建物を壊すことなく洋館の『中』から龍が滑り出て来た
波紋が広がり洋館の輪郭がわずかに歪んだが、水面が凪ぐように、その龍が出て行ってしまえば何事もなかったようにもとに戻る
闇夜に向かって燐光を散らして駆け抜ける
その龍の前脚には球体が握られていた
その中身の予想が付くマックスはしなやかな肢体を椅子に預けて呟いた
「あんた……息子をどうしたいんだ?」
吐き出した煙がやけに苦く感じた
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消えてしまった龍はフェイトを連れ去ってしまった
部屋に満ちていた水はやはら幻だったのか、潮が引くように消えてしまった
ベステモーナは胸に手を当てて手をきつく握った
騒つく胸を押さえていなければ騒ぎだしてしまいそうだった


