上手くやれたことの安堵と餓えの狭間でブラッドは狂いそうに四肢を強張らせた


「……血が……!!」

「ベステモーナ!この前の魔法でブラッド押さえて!」


ディンがブラッドを羽交い締めにしたまま叫ぶ


「ほら、演習でやったやつ!早く!」

「はっはい!」


ベステモーナは素早く魔法でブラッドを押さえ込んだ



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ブラッドは優しすぎるから


だから、本当はこんなところに来たくは無かった


いつかこんな事になる気はしていた


最悪の形でそれは起こったのだ



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甘い、甘い


赤く光のはぜる視界を見渡して、なぜ、とブラッドは思った


なぜ……血の匂いが甘いと感じていたのだろう?


実際の血の味はその比ではなく、甘く、刺激的で、温かい、極上のモノだった


ブラッドの内に眠っていた獣がもっとソレを寄越せと暴れていた



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ブラッドはフローリングの床板から生えた木の枝で拘束されていた


それでも、そこから這い出ようと暴れる事を止めなかった
動くたびに銀糸の髪も乱れる


「……これが……吸血を禁忌にする理由ですか?」


ベステモーナの問いにディンとリーバは無言で返す
それは肯定の意だ


「まぁ……成人なんてもうすぐだけど……コレはまずいかな?」


リーバは渇いた笑いをこぼすが、それも力なく響く
フェイトの脈を確かめてあり得ない、とディンは呟いた


「今さらだけど……こんなのおかしよ」

「ディン君!」


ベステモーナが咎めるように言えばディンは舌打ちするように言った


「違う。誰もフェイトが死ねば良かったなんて思ってないさ。けど……パラサイトに寄生されたら大抵直ぐに死ぬんだ………フェイトはいつ寄生された?」


「多分……海に入った時……様子が変でした」

「それから何時間たってる?」


少し考えるようにしてリーバが言った


「そうか!……3時間はたってる。普通そんなに持たない………」

「そうだ」