フェイトは何の気なしにブラッドが持っていた本を取り上げる
片手でパラパラとめくっていると、店の奥から声が響いた
「私のセンスにケチをつけるきですか!?」
「ケチを付けるもなにも、それ以前の問題だよ」
ベステモーナとディンだ
本を手にしたままフェイトは店の中に入る
「そんなの部屋に飾りたいなんて……」
「何ですか!その言い方は!可愛いじゃない!」
店の中ではベスがすごい剣幕でディンに詰め寄っていた
しかし、その手に持っている雑貨を見てフェイトは顎を落とす
「ベス……なんだよそれ」
フェイトが恐る恐る呟けば、ソレを手にしたベスが目を輝かせてフェイトに問うて来た
「フェイト!これ可愛いですよね?可愛いでしょう!」
最後は問いではなく断定した言い方だったが、うなずくことは出来ない
「いや!!それはヤバいって!」
ディンも呆れたように鼻をならす
「ほらみろ」
訝しげに首をかしげるベスが持つ物体は、恐らく雑貨なのだろうが、可愛いという言葉とは掛け離れていた
フェイトはゴクリと生唾を飲む
例えるならそうだ……
「お前の作るお粥くらいマガマガしいぞ!」
「あっ言えてる!」
「何ですって!?」
目を釣り上げたベステモーナがフェイトとディンに食って掛かる
騒がしくなった店内で、ブラッドだけが我関せずといった様子で別の棚を眺めていた
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ズルリ、と這い出る影があった
小さな小さなそれは、結界の緩んだ網目を擦り抜けるようにしてやってきた
微かなそれは小さな意識だけ、強く残してしがみつくように触手を伸ばした
ホシイ……ホシイ……
モット……ホシイ……
更に触手を伸ばして、それは波の打ち寄せる岸壁にしがみついて頭を出した
形自体歪んでいるので、それが頭だとはいいきれないのだが……
しかし、その執念は何より強かった


