フェイトは何の気なしにブラッドが持っていた本を取り上げる
片手でパラパラとめくっていると、店の奥から声が響いた


「私のセンスにケチをつけるきですか!?」

「ケチを付けるもなにも、それ以前の問題だよ」


ベステモーナとディンだ
本を手にしたままフェイトは店の中に入る


「そんなの部屋に飾りたいなんて……」

「何ですか!その言い方は!可愛いじゃない!」


店の中ではベスがすごい剣幕でディンに詰め寄っていた
しかし、その手に持っている雑貨を見てフェイトは顎を落とす


「ベス……なんだよそれ」


フェイトが恐る恐る呟けば、ソレを手にしたベスが目を輝かせてフェイトに問うて来た


「フェイト!これ可愛いですよね?可愛いでしょう!」


最後は問いではなく断定した言い方だったが、うなずくことは出来ない


「いや!!それはヤバいって!」


ディンも呆れたように鼻をならす


「ほらみろ」


訝しげに首をかしげるベスが持つ物体は、恐らく雑貨なのだろうが、可愛いという言葉とは掛け離れていた


フェイトはゴクリと生唾を飲む
例えるならそうだ……


「お前の作るお粥くらいマガマガしいぞ!」

「あっ言えてる!」

「何ですって!?」


目を釣り上げたベステモーナがフェイトとディンに食って掛かる
騒がしくなった店内で、ブラッドだけが我関せずといった様子で別の棚を眺めていた



*******



ズルリ、と這い出る影があった


小さな小さなそれは、結界の緩んだ網目を擦り抜けるようにしてやってきた


微かなそれは小さな意識だけ、強く残してしがみつくように触手を伸ばした


ホシイ……ホシイ……

モット……ホシイ……


更に触手を伸ばして、それは波の打ち寄せる岸壁にしがみついて頭を出した
形自体歪んでいるので、それが頭だとはいいきれないのだが……


しかし、その執念は何より強かった