ディンも時計塔の手摺りにもたれ、遠くにみえる水の都を一瞥した
ディンがフェイトに対して不機嫌なのは八つ当たりだった
ブラッドは口を必要以上に開かない
謎だらけの今回の事件の事を話そうとしない
いつも寡黙なためフェイトとベステモーナは気付いていないかもしれないが、ブラッドは絶対に何かを隠している
それを2人っきりで聞いても教えてくれない事に苛立っているのだった
フェイトはまだすまなそうに謝って来る
余り八つ当たりばかりしてもしょうがないと、ディンは1つ息をついていつも通りに笑ってみせた
*******
ブラッドは珍しく制服を着たままベッドに横になっていた
着替えるのも面倒なのか、気だるげに四肢を投げ出している
考えているのは『あの日』の出来事だ
ブラッドは訳もわからず、激しく揺れる白い部屋の中で転倒した家具に当たらないようにしていた
すると、突然天井が開いた
フェイトが連れていかれた時と同じだ
違ったのは、ブラッドを摘んだ手が少し違った事だった
その空間から連れ出され、一瞬の浮遊感のあと地面の上にブラッドは座っていた
「おはようさん」
独特のなまりがあるしゃべりをした男に顔を覗き込まれる
前に一度見た
確か特別講師の魔法使いだ
「もう心配せんでええよ。恐い人はおらんさかいに」
ニコニコ笑って黎明は警戒するブラッドを安心させるように距離をとる
すぐそばには見知らぬ初老の男性と横たわるフェイトがいた
それに驚いて駆け寄る
「フェイトは大丈夫だよ」
落ち着いたトーンの声でその男性は言った


