「私に魔法を教えてくれたのは貴方でしたわ。檻の外に連れ出して……広い世界を見せてくれたのも」
(……檻?)
大きな黒瞳が見上げてくる
その中に揺れる何かに胸が締め付けられる
「もう……私を置いて行かないで」
そっと
少女の手がフェイトの頬に触れた
その時
パキン
金属が弾けるような音と共に何かが滑り落ちる感覚がフェイトに迫った
うなじのあたり、慣れた髪飾りの重みがスルリと滑り落ちた
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養父の声だ
いつのことだったろう
銀の髪留めを持った養父は膝をついて視線を合わせた
『フェイト、これを付けなさい。約束だ。絶対にこれをはずさないと、約束だ』
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箱の中
外の声も聞こえないその場所で、ブラッドは立っている事ができなかった
(なんだ!……この魔力は!?)
叩きつけられるような、空間を渦巻く魔力
こんな事はあり得ない
魔力を放出することは基本的な事だが、こんな強い魔力を放ち続けるなど……
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そこはアウロラの宝物を置いておく部屋だった
その部屋の前に控えていたアルドワーズとソルトはソレを感じ、驚いて部屋の中に入った
中にいるはずの主に伺うヒマが惜しいほど、それは異常なことだった
「アウロラ様!?」
扉を開けた途端に身体を圧迫する魔力に顔をしかめてアルドワーズとソルトは主の姿を見た
白い毛布が敷き詰められたそこに、主は座っていた
茫然と見据えるのは向かいに座った少年
少年は虚ろな瞳で力なく座り込んでいた
しかし、この空間を埋め尽くし、荒れ狂わせている魔力の出所はその少年だった


