アルドワーズは立ち上がり主の前に立った
アウロラはそっとアルドワーズの頬に手を添える
「気にしなくていいの。ワーズとソルトはちゃんと連れて来てくれたわ」
涙に濡れた瞳で、それでも小さく微笑んだ
労るように頬を撫でられ、アルドワーズは目を細める
主は次にソルトに手を差し出す
ソルトは無表情ながらも、どこか嬉しそうに少し身体を屈めて頭を撫でてもらう
「でも……クラリスがこのまま引き下がるとは思えませんわ……」
主がそう言えば、アルドワーズとソルトが黙ってはいない
「例え七人の賢者であろうと」
「我らの主に指一本触れさせません」
「その宝にも……」
闇の賢者はクスリと笑った
「……滅多な事じゃココには来れないわ……けれど、空の賢者に出て来られたら貴方達でも危ない……」
ズルリと、闇が濃くなる気配がする
漆黒の瞳は静かに危険な空気をまとう
「……邪魔するなら、私の闇に落としてあげるわ」
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あちらとこちら
その境界線はすぐそこにある
初老の男性
口髭を蓄え、白くなった髪は上品に撫で付けられている
その男性の名をゾフィー・クロウリーと言った
ゾフィーは街の路地に足を踏み入れる
カツンと石畳を踏み、次に足を踏み出せばその景色は一変した
水鏡をくぐったように景色は滲み、波紋を作る
しかし、ゾフィーが通り抜けてしまえば何事もなかったように路地はもとの景色に戻った
サクッ、と緑の草を踏みしめてゾフィーは約10年ぶりに訪れたコチラ側の世界を仰ぎ見る
路地の姿形はもうない
あるのは果てしない緑の草原に、遠く霞む山脈
少し冷えた風が吹き抜ける冬の近づいた空
幻想の世界がそこにはあった
「ただいま……」
一つ瞬いて、薄茶の瞳は鋭く空の彼方を見据えた


