ドン、と白い拳がフェイトの肩を叩いた
悲しく、切ない声が鼓膜を震わせる
「ひどいですわ!私がこんなにも貴方を待っていたのに!シエルは私を忘れてしまったのね!」
大きな黒い瞳が揺れて、玉のような涙が零れる
その瞬間、空気のように控えていた2人が殺気を放つ
さすがにそれに気付いたフェイトは焦った
「あっいや!だから……俺は」
涙を零しながら、それでもフェイトを抱き締める手を緩めない
フェイトがどこかへ行くことを恐れるように
啜り泣いた顔を上げてアウロラは人差し指を掲げた
「もう放しませんわ。絶対に……」
形の良い指から突然、魔方陣が浮かび上がる
それはフェイトとブラッドを包んでほの暗い光を放った
小さな浮遊感の後、2人はその場から消えた
それを見届けて、ソルトが静かに立ち上がり涙を流す主の傍に跪く
「……もう1人も一緒に入れてしまって良かったのですか?」
流れるような仕草で主の手を取り、アウロラは涙を拭いながら立ち上がった
ソルトの言葉にキョトンとする
「もう1人?」
「アルドワーズが……タイミングを見誤って……メディアの生徒に1人、見られたので連れて来ました」
「ソルト!俺のせいにすんなよな。おそらくバンパイアの子供ですが……」
アルドワーズは膝をついたまま主をうかがったが、アウロラは特に興味を持った様子もなく首をかしげた
「そんな子がいたの?まぁいいわ。シエルがいれば」
主の視界には、もう1人の子供は入っていなかったようだ
アウロラはソルトに手を預けたまま、アルドワーズに手を差し伸べる


