温かい水の中から突然空中に投げ出されたように、フェイトは目を覚ました


力が抜けたようにへたりと座り込む
そこで、今いる場所が自分のベッドでないことを認識した


「あれ……?」

「……フェイト、気が付いたか?」


ポカンとした声を上げればすぐそばで押し殺した声が聞こえた
振り向けば、そこにはいつも通り銀色の長髪を束ねたブラッドが膝をついてフェイトをうかがっている

紅い瞳は少し緊張したように張り詰めていたが、そこには心配そうな色を浮かべていた
そして、視界の端に捕えた人物に目を丸くする


いつか見た怪しい2人組の内の1人
不敵に笑った男は魔法騎士だと名乗ってはいたが、その出立ちは不審極まりない
だから、一度見ただけだがよく覚えていた


「ご苦労さま」


不意に聞こえた声に正面に向き直ったフェイトの視界に、2人組のもう一人がいた
しかし、そいつは無表情で喋ってはいない
言った声は女のものだったから彼ではないはずだ


ソルトはすぐにフェイトの視界から外れてアルドワーズの隣に移動する
そして、2人は恭しく膝をついて最敬礼をとった


「お待たせ致しました」


フェイトは更に茫然として正面を見た
先ほどの声の主はすぐそこに立っている


「いいの……やっと逢えましたわね」


うっそりと微笑んだ女性は頭から爪先まで闇に包まれていた


高く結上げられた髪は艶やかな黒
身体に纏った黒いドレスに、フェイト真っ直ぐに見据える漆黒の瞳
雪のような肌に紅い唇が血のようで、それが更に闇の色を濃く見せていた


「逢いたかった……!」


闇を切り取ったような瞳を震わせて、その女性はフェイトに抱きついた
フェイトは突然のことに戸惑いながらも、唐突に感じた


(……この人の声……夢の中で聞いた声だ)


毎晩見ていた夢


しかしそれは直ぐに霧散していたはずなのに、フェイトはその時聞いた声が彼女のモノだと確信していた