108号室
フェイトの部屋と殆ど変わらないブラッドの部屋でディンはソファーに寝そべる
「ディン……さっき何しようとした」
「マインドコントロール」
「ディン!」
気軽に答えたディンにブラッドは厳しく叱責する
しかし、ディンには応えた様子はない
「別に血を吸う為にしたんじゃないよ」
バンパイア
元々は人間だった彼らは、遥か昔に『人』から外れた
起源は身体の弱い、脆弱な存在だったそうだ
しかし、その人間は強い魔力を持っていた
魔力を使い、変異したのがバンパイアだった
バンパイアにとって血を吸うのは、脆弱な身体を維持するために食物を食べるよりも効率のいい方法なのだ
バンパイアは普通に人間の血を吸っていれば強靱な肉体を維持できる
そして、魔力を使った『マインドコントロール』を使う
相手を意のままに操る事ができるのだ
「ちょっと遊んでみようとしたけどダメだった。ブラッドも見ただろ?フェイトにはマインドコントロールがきいてない」
「…………」
ブラッドも見た
先程、ディンはマインドコントロールをしようとしていたのにフェイトには何の異常もなかった
「確かに美味しそうな匂いだけど、一族の禁を犯すつもりはないよ」
ソファーに寝そべり手を振って見せるディンにブラッドは眉根を険しく寄せる
「そんなの当たり前だ」
「人間の血ってどんな味なのかなぁ…」
ディンは何かに酔ったように言葉を紡ぐ
先程の買い物袋の中身をディンは取り出して食べはじめる
それはサンドイッチ等でない
獣の血だ
バンパイアは成人するまで人間の血を吸うことを禁じられている
それは、醜い衝動を抑えられないからだ
獣などより人間の血は最高の食事なのだ
首筋に歯をたてて溢れた赤い血をすする……それほどバンパイアが求めているものはないのだ
バンパイアは血以外の食事はしない
食べられないわけではないがその行為にはあまり意味がない


