その手で溶かして


「最後だし、一緒に帰ろう。今日は図書室寄って行かないだろう?」



からかうような口調に私は少しだけ顔を緩め、遠藤君に近づいた。



「今日は真っ直ぐに帰る予定よ。」



「なら、行こう。」



教室のあちらこちらで、涙を流しながら友との別れを惜しんでいる姿が見える。



部室に寄って行こうなんて声が聞こえたり……



でも、私にも遠藤君にも、別れを惜しむ友もいなければ、名残惜しい場所もない。



3年間通い続けた図書室にでさえ、そんな感情は沸いてこないのだ。



最後にもう一度足を踏み入れておきたいと思えない私は冷たい人間なのかな。



遠藤君と肩を並べて、教室を出ると廊下にはサワの姿がある。



私を恨むような目で睨んでいるサワ。



「真雪、気にすることないから。」



その視線に気付いた遠藤君はすかさずフォローしてくれる。



私は気になどしないのに……



ただ、こんなことがなければ別れの挨拶くらいはしたんだろうかとサワを視界に入れながら考えていた。