「それで、今はこの公園だ」
「うん。長く居られたらいいけど…」
「だ、大丈夫だよ!ほら、この前だってたくさんの人が詩野の歌を聴いてたじゃないか」
「最初はいつもそう。それに………」
何かを言いかけてやめた詩野の、か細く、そして寂しそうに語る瞳が、
少し潤んでいるように見えた。
「それに?」
「それに…時間がないかもしれない」
「時間がない?」
「ううん。なんでもないわ。ごめんなさい」
そう言って詩野は立ち上がった。
“ただ、年齢的に急がないといけない”
何も知らない僕は、
この時自分の中で、そう解釈していた……
立ったまま背を向ける詩野に、
僕は、鞄の中に隠していたアロマ缶を差し出した。
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