「あのね」
「なに?」
僕は飛び交う水滴を目で追ったまま、
返事だけをした。
「たまに不安になるの」
「…どうして?」
「各務くんは、さっき私の歌すごくいいって言ってくれたけど…」
「本当にそう思ってるよ」
「…うん、ありがとう。でも…」
「でも?」
「実はこの公園、三つ目なんだ」
「三つ目?」
水滴が夜空に消えていくのを確認してから、
僕は詩野を見た。
思ってたよりずっと、
詩野が沈んだ表情をしていて驚いた。
「三つ目って?」
「ここが私にとって三つ目のステージなの」
「ステージ?」
「そう。最初はたくさんの人が私の歌を聴いてくれる。でも、みんなすぐに飽きてどこかに行っちゃうわ」
「ここに来る前は、どこで?」
「通ってた大学の中。その前は駅前ね」
「駅前って、ここの?」
「違うわ。私実家も大学も福岡だから」
「いつ、東京に?」
「ほんの二、三ヶ月前」
「そうなんだ。でも、なんでいつも同じ場所で?」
「毎日違う場所で歌うとお客さんはなかなか足を止めてくれない。だから同じ場所でいつも歌ってれば……と思って」
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