「やり過ぎだ。いい加減にしないか」
愚かなサラリーマンが、持っていた鞄を力強く握りながらハリネズミに言った。
その手は少し震えている様にも見える。
「関係ねぇだろ!おっさんは引っこんでろ!」
ハリネズミが、
長く垂れた前髪からわずかに見える瞳でサラリーマンを睨みつける。
しばらく黙るとサラリーマンは言った。
「君は何のために生きてるんだ。仕事は?夢は?」
その意外な問いかけに、車内がざわつき始める。
なんだかドラマのベタなワンシーンのようだ。
でも、
数秒前まで愚かに見えたそのサラリーマンが、僕には何故か立派に見えた。
目を見ればそれが皮肉でないことがすぐにわかった。
ハリネズミの口元が緩む。
そして軽い舌打ちをしたあと、それを無視するように、
ハリネズミは女を引きずり電車を降りた。
そのあと、静まる電車の中で考えた。
僕は?
…僕はなんのために生きているんだろう……
何を目標に…
電車が錆びたレールの上を走る鈍い音が、
僕の胸にズキズキと突き刺さってくる。
そんな気分だった。
.
