観察が五分を過ぎる頃、
そのカップルが大声で喧嘩を始めた。
「ダメだって言ってんだろ!」
「いーじゃん一枚くらい!」
どうやら、男の持っていたガムの最後の一枚が喧嘩の原因らしい。
こいつらは喧嘩の原因までくだらない。
短すぎる限界を迎えた男は、
女を思いきり突き飛ばし、女はパンツ丸見えで泣きわめいた。
悲しそうにそれを見る者。
友人と笑いながら見る者。
見てみぬフリをする者。
漫画でしか見ることができないと思っていたその光景が哀れで、
僕は馬鹿にするように心の中で小さく笑った。
社会の除け者にされているこの若者は、
ただ目立ちたいだけなのだろう。
「誰か自分の存在に気付いて欲しい」
その思いから、そこがどこであろうとこういった行動を取ってしまう。
なんて可哀相で、価値のない生き物だろう。
そんな価値のない生き物に同情してる自分が、なんだかおかしく思えてきた。
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