時計の針が、午前三時を指そうとしていた。



その時、ベッドに置いていた携帯が鳴った。


誰だろう、こんな時間に。

「もしもし」

「あぁ、浩二。なに?もう寝るとこだよ」

「聞いてくれ」


物音一つしない静かな夜にもかかわらず、

注意してやっと聞こえるほど小さく、そして暗い声で浩二が言った。


「どうしたの?」

「今日さ、あのあと早速使ったんだよ」

「あぁ知ってるよ。それで?」

「それが…」


「ふーん。残念だったね」

「なんだよ残念って。まだ結果言ってないぞ」

「そんなのわかるよ。雰囲気で」

僕は小馬鹿にするように笑った。


「そっか。そうだよな」

「『性欲』は?」

「使う気にもならなかったよ」

予想通りの返答が面白く、でもちょっぴり切なかった。

「ハハ。だよね」

「お前は買わなくて正解だよ」

「そうみたいだね」

「あぁ。まぁ一応報告だ。それじゃ」

「うん。それじゃ、おやすみ」



あれだけ否定したんだ。

今更買ったなんて言えない。


それに浩二には悪いけど、良い実験台になってくれた。


僕は持っていたアロマ缶を、

無造作に机の引き出しに放り込んだ。