池から上がった俺は、速水に靴を渡していいのか悩んでいた。
「先生、ありがとうございました!あの、靴を返して下さい」
「ん?あ、あぁ……」
そう返事したものの、返していいのか……。
こんな嫌がらせをされて、速水はショックを受けないだろうか……。
「先生?」
なかなか靴を渡さない俺を見て、速水は声をかけてきた。
「速水、この靴は履ける状態じゃない……。だから、新しいのを……」
「私、この靴が履きやすくて好きなんです!」
速水は俺の言葉を遮ってそう言った。
「だけどな……」
「大丈夫です。帰って綺麗にしますから」
速水はそう言って笑った。
速水に落書きが見えないようにしたつもりだったのに……。
そう言った速水は落書きが見えたのかもしれない。
なのに何で笑ってられるんだ?



