「なぁ、もし、金を持って帰らなかったらどうなる?」
「うーん……。多分、殺されると思います」
「はっ?」
殺される?
金を持って帰らなかっただけで?
「娘の命より金かよ」
俺はそう吐き捨てるように言った。
「当たり前じゃないですか!1度、甘い蜜を吸ったら抜け出せなくなる。あの人達は私なんてどうでもいいんです。私は金を運ぶだけの働き蜂。稼げなくなったらいらない存在なんです。だから死のうがどうしようが、あの人達には関係ないんです」
速水はそう言ってクスクス笑う。
何で……。
「何で笑ってるんだよ!さっきからヘラヘラ笑いやがって!」
速水の両親に対して、すっげー腹立つ。
でも危機感のないコイツにも腹立つんだよ!
俺が大声を出すと、ヘラヘラ笑っていた速水の顔が強張り、肩をビクンと揺らした。
「お前のやってることは犯罪なんだよ!バカなお前でもわかるだろ?」
「わかってるよ……」
速水は俯き加減でそう呟いた。
「わかってるなら何で!」
「私には、この仕事を続けるか、殺されるか、2つに1つしかないんです!」
その時、速水の携帯が鳴り出した。
「先生?離して下さい。お客さんからの電話かもしれないので」
「離さないよ。離したら、客んとこに行くだろ?電話の客を断るなら離してやってもいいけど?」
「……わかりました」
俺は速水の答えを聞いて、手の力を抜いた。
速水は鞄から携帯を出して、バスルームへと駆け込む。
俺は体の力が抜けて、ベッドの縁に座り込んだ。



