「もういいですか?」
「えっ?」
「1日に最低でも5万円持って帰らないといけないんです。だから先生と話す暇はないんです」
速水はそう言ってベッドから降りた。
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
俺は速水の腕を掴んだ。
「離して下さい。次のお客さんが待ってるので行かなきゃいけないんです。さっきのお客さんだって、会社の社長さんで上客だったのに……」
「最低でも5万円って……。速水はそれを全部渡してるのか?」
「稼いだ金の10%が私の取り分です。だから少しでも沢山、稼がないと私自身が生活していけなくなるんです」
「どういう、ことだ?」
「だから自分の学費や食費、携帯代とか生活に必要なもの全てです。高校だけはちゃんと行きたかったので、自分で出す条件で高校に行くことを許してもらったんです。先生?ホントに、もういいですか?手を離して下さい」
速水が俺から離れようと腕を動かす。
俺は速水の腕を掴んでいる手にギュッと力を入れた。
速水の真実を知って、手を離したらダメだと思った。
この手を離したら速水は、客のところに行ってしまう……。



