「こらぁ!オヤジ!鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!」
ラブホに入る寸前、俺は速水とオヤジの間に入って2人を引き離した。
「何なんだ!君は!」
「せんっ!」
「バカ!先生って呼ぶんじゃねぇ!」
目を見開き、驚く速水の耳元でそう言った。
「俺が先客だ。悪いな、オッサン」
「アイちゃん、本当か?」
速水はアイって名乗ってるのか……。
「ホントだよな?ねぇ、アイちゃん?」
「えっ?えっと……」
マズイ!速水の目が泳いでる。
「俺なんて3ヶ月も前から予約してたんだよ」
速水の前に立ち、オヤジにそう言った。
「アイちゃん、本当か?」
俺の後ろにいる速水に確認するオヤジ。
俯いたまま何も言わない速水。
「アイちゃん!」
速水の源氏名を呼ぶオヤジ。
その時、オヤジの左手の薬指にシルバーリングか輝いてるのが見えた。
「しつこいぞ、オッサン。アイちゃん困ってるだろ?てか、結婚してるくせに女を買ってんじゃねぇよ!このエロオヤジ!テメェは家で嫁でも抱いとけ」
「君だって……」
「俺は独身なんだよ。なぁ、オッサン。こんなとこ誰かに見られたらマズイんじゃない?会社での地位もなにもかも失うよ?もしかしたら容疑者でニュースに出るかもなぁ。あ、俺はバレても構わないよ。失なうものなんて何もねぇし。ムショに入ったって構わねぇし」
「えっ?」
後ろにいる速水の声が聞こえた。
オヤジの目が泳ぎ、オロオロし始めた。
「エロオヤジには、これをやるよ」
俺はスーツのポケットから風俗の割引券を出した。
さっき、そこで配ってたやつだ。
「アイちゃんより、いい女が沢山いるぜ」
割引券を取るオヤジ。
エロオヤジ!
「アイちゃん、行こうか?」
俺は後ろにいる速水の手を握ってラブホの中に入った。
速水の手が微かに震えていた。



