化学室のドアを開けると、速水がいつもの席に座り携帯を弄っていた。
しかもクリスマスの曲を鼻歌で歌いながら。
変な噂を流されているのに呑気なもんだな。
「おいっ!」
「うはっ!」
速水が変な声を出して顔を上げた。
「あっ!先生、いつからそこに?」
「さっき」
「全く気付きませんでした」
気付けよ。
俺は、化学室のドアを閉めて、速水のとこへ行き、向かいに座った。
「先生?準備室に行かないんですか?」
「行った方がいい?」
「いや、別に……」
俺の前で携帯を弄ってる速水。
オッサンとホテルから出て来た?
コイツがエンコーしてる?
う~ん……。
「なぁ、速水?」
「はい」
「お前、彼氏いんの?」
エンコーやってんの?なんて、単刀直入には聞けるはずもなく……。
「えっ?」
速水は携帯をパタンと閉じて、こちらを見た。
「気になりますか?」
「いや、別に……」
「いませんよ。いたら毎日、ここには来てません」
「そっか……」
そうだよな。
「じゃあ、どんな男がタイプ?例えば、自分の父親くらい年が離れてるとか……」
そう言って、速水の反応を見る。
「そんなオジサンはイヤです」
速水は至って普通の態度と答えで慌てる様子もない。
「そかそか……」
「何で、そんなこと聞くんですか?」
「何でだろうな。俺にもよくわかんねぇ」
俺はそう言ってアハハと笑った。
やっぱ噂は嘘だったってことか……。
そうだよな。
やっぱ嘘だったんだよ。
でも――……。



