「別れても、好きでいていいですか…?」

 大量に運ばれてきた荷物を部屋に押し込むと、荷物の整理もそこそこに美和は買い物に出かけた。そして帰ってくるなりキッチンに向かった。「今日はふたりにお礼の意味も込めて手料理をごちそうするわね」と意気込んで。

 末里家の間取りは6LDKあり姉弟ふたりで住むには大きすぎた。親がいたとしても四人家族。一人一室でも二部屋あまる。どうも両親はもっと子供を作るつもりでいたらしい。

 現在両親の寝室は使われていない。櫂と加菜子の部屋に客間が一室。ほとんど使うことのない書斎が一室ある。そして今日からは美和の部屋が加わる形となった。櫂・加菜子・美和ともに二階が自室となる。

 キッチンはダイニングルーム一体型となっており、カウンター越しに料理する様子を見ることができた。運ぶのが面倒なので朝食はカウンターテーブルですませることも多い。

 美和の引っ越しが落ちつき、櫂はリビングのソファで本を読んでいた。しかし美和がキッチンに入ったとたんに落ち着いて本も読めなくなってしまった。カウンターの向こうから、お世辞にもリズミカルとはいえない包丁さばきの音が聞こえてくるのだ。

「なぁ」

 キッチンの中で眉間にしわを寄せている美和に声をかけた。

「もしかしておまえ、料理できないんでないの?」

 手元を見ながら唸っていた美和は顔を跳ねあげる。

「な……何いっているのよ!? わたしにできない事なんてないんだからね!」

「ならいいけど……」

 胸を張る美和の顔に冷や汗が流れているような気がしたが、櫂はそれ以上突っ込むのをやめにした。美和が器用なのは櫂も認めているし、それに本人は隠しているつもりのようだがこっそりレシピ本を見ているのはバレバレなので、少なくともレシピにそって作れば最悪でも毒にはならないだろう──たぶん。

「ねぇねぇ櫂くん」