「……い……いられるもの……」

「あん? 聞こえねぇよ。だいたい振られた後も好きでいる、なんて単に未練がましいだけじゃねぇか。一途でステキな想い、だとでも思ってんのか? 笑わせんな。そういうのはお節介と同義語だ。単に迷惑なだけ。相手を恨む? 大いに結構じゃねぇか。みんなそうやって振った奴に見切りつけて次に進むんだ。一人の人間に執着し続けるなんざストーカーと」

「うるさいな!」

 とつぜんの大声に櫂(かい)は顔をしかめた。加菜子(かなこ)は立ちあがる。

「とにかく! わたしはぜったい好きな人を恨んだりなんかしない! 嫌いになんかならない! ぜったいに! ずっと……ずっと好きでいるって決めたんだから!」

 涙ぐみながらそういい張る加菜子に櫂はため息をついた。

「なら、そうしてろよ」

「そうするもの!」

 その場を後にする加菜子の背中を見つめながら櫂はもう一度 深いため息をついた。

ずっと、好きでいると決めたんだ。

 こんど好きになった人は、ずっと想い続ける人だって決めたんだ。

 その想いはうそじゃない。

 好きな人を嫌いになんかならない。

 もう会えなくても。

 もうわたしのこと見てもらえなくても。

 わたしは、彼を好きでい続ける。



 昨日からずっとイライラしっぱなしだった。

 櫂は大講堂から出てくると、キャンパス中央を抜ける桜並木に設置されたベンチに腰かける。背もたれに寄りかかり空を仰いだ。

 灰色で埋まった梅雨空だった。もう梅雨も終わりになるかという時期なのに分厚い雲が空に蓋をしている。大学のキャンパスは今にも大粒の雨を落とされそうな匂いがした。