老婆の家に着き、洗い場にある水を貯める瓶に水を移すと、ふとなにをするか思いだした。それで彼女は桶をいつもの位置に置き、老婆に了解を得るためにリビングへと向かった。

「ねえおばあちゃん、顔洗っていいかな?」

「いいわよ。タオルは適当に使っていいからね」

「ありがとう」

「もうすぐお茶ができるから、飲んでいきなさい」

「うん」

 老婆から許可をもらい、洗面所で顔を洗う。

「ふう、さっぱりした」

 言いつつ彼女はタオルで顔を拭うと、鏡に映る自身を見つめた。銀髪は直毛、真っ直ぐに切られた前髪で額を隠し、同じ色の犬耳が大きく垂れている。すっと通った鼻、薄桃色の唇、白磁を思わせる白い肌、そして碧青の瞳。

 鏡に映る瞳をまじまじと見つめながら、彼女は自身の髪の色を気にしていた。

「栗色か、黒であれば目立たなくて済むのに」

 顔を洗い終えてリビングに戻ると、老婆はすっかり支度を済ませていた。